Column

刑務所の意見箱とうわばき

コラム

前回のブログでは、ギャマノンに参加する依存症者のご家族のお話と、RDデイケアセンターで活動されているアルコール依存症の方のお話を聞いて、新たな気付きを得たと書きました。

栃木刑務所では作業に行くときにうわばきを履くのですが、底がとても薄いです。

皆さん一度は履いたことがあると思いますが、これが受刑者の靴になります。
この靴で作業をするのはかなりきつく、クッション性がないので私はすぐに腰が痛くなってしまいます。内掃工場は刑務所中を歩き回る作業なので、この靴だと足が棒になります。

正式な名前を忘れてしまいましたが、刑務所の処遇改善に受刑者が意見を申し出ることができる制度があります。意見箱という名前だったような……(うろ覚え)

運動場の一角にポストが設置されているので、そこに投書します。投書された内容が本当に必要なものかどうか、刑務所とは関係のない第三者が確認し、実際に取り入れても良いようなものであれば採用されることがあるようです。

この意見箱の話を他の受刑者から聞き、どんなことをみんな投書するの?と質問したところ、その受刑者は食事の内容について投書したことがあると言っていました。

刑務所では食事が唯一の楽しみなので、食に対する要望が多いのは当たり前かなと思います。

 

健康診断などで医務へ行くと、“医務担当の職員の先生”と“医師の先生”の二人がいます。
医師ではなくこの“医務担当の先生”がものをハッキリ言う怖い先生でした。役職も高かったと記憶しています。

受刑者が医師に会う前に医務の先生がある程度の診断をして、本当に具合が悪い人とそうでない人に振り分けます。そして大概の受刑者が、この医師ではない“医務担当の先生”に診察を受けるというおかしな状況が起こっていました。

医務担当の先生は医師免許は持っていませんから、診断も薬の処方もできないはずです。

以前のブログにも書きましたが、刑務所や拘置所では具合が悪いと嘘を言って作業拒否をする人が一定数います。実社会でも仮病でズル休みをする人がいますが、刑事施設ではその割合が跳ね上がるわけです。

「具合が悪い」と言う受刑者全員を医師が診ると膨大な時間と手間とお金が掛かり、法務省側である程度の判断していかないと、刑務所の運営がままならなくなるのでしょう。

ですので“医務担当の先生”は「あんた仮病使ってるでしょ?」という目で初めから見て(診て)きます。

私は受刑生活中に2回ほど具合が悪くなったことがあります。
1回目は立川拘置所で謎の腹痛と下痢になったとき。2回目は栃木刑務所で体中に湿疹ができたとき。

立川では検便をしてもらい、医師の診察もしっかり受けることができました。
ですが栃木では体中に湿疹が出ているのは目に見えて明らかなのに、なかなか医師に診察してもらえず結構辛い思いをしました。

私が栃木刑務所に入所するかなり前から、このような医療行為が続いてきてしまったのでしょう。
そんなことをしていれば意見箱に「医務の担当は医者じゃないのに診察するのはおかしい!」という投書がたくさん来るのも、納得できることかなと思います。

この意見箱のおかげで、受刑者がきちんと医師からの診察を受けられるようになったと聞いています。処遇改善の一つの例ですね。

 

ブログの始めに話を戻します。
内掃工場だけではなく衛生係や洗濯工場、炊場は立ち仕事がほとんどですので、靴はもう少し厚くクッション性のあるものがいいなと思っていました。そこでこの靴を自費で購入します。

 

刑務所の物品購入は定価なので、こんな靴でも5千円くらいしたと思います。これで作業をした方がうわばきよりマシという程度ですが、この靴には出所まで大変お世話になりました。

私は意見箱など法務省のパフォーマンスでただの飾りだと思っていたのですが、意外と意見を聞いてくれるのだと知ったときに、一つの投書をしました。

「内掃工場、洗濯工場、炊場、衛生係など歩き回ったり立ち仕事が主な作業の受刑者には、クッション性のある靴を貸与して頂きたいです。」

意見箱に投書してから2ヶ月ほどで仮釈放になったので、私の投書が今の栃木刑務所に反映されているかは分かりません。

反映されていればいいな、と靴を見る度に思い出します。

この靴は今も家の靴箱の中に大切に保管してあります。
元受刑者の皆さんも、刑務所とは関係のない生活を送る人も、「そんなものを取っておくなんて縁起が悪い」と思うかもしれません。

刑務所で使っていたものはすべて捨てないとまた戻る、というジンクスがあったりしますが、私はこの靴を戒めとして大切に取っておこうと決めています。

483番として過ごした日々を決して忘れない。

あの不自由な日々に決して戻らない。

この靴を見る度にそう心に刻むのです。

 

※この記事は碧の森運営者、依存症子のブログ依存症子 好き放題を続けていたら受刑者になりましたの内容を、加筆修正して再掲載したものです。

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