Column

出所後の苦しみ

コラム

前回のブログでは、仮釈放当日の出来事を夫と私の視点で書きました。

2週連続で仮釈放のことについて書いたので、今日はその流れで出所後のことについて書いていきます。

最近とあるギャンブル依存症者の方のツイートが目に留まりました。その方を仮にKさんとします。私はその方をフォローしておらず、たまたまタイムラインに流れてきたので、さかのぼってツイートの内容を見てみました。

奥様、お子さんのいらっしゃる元パチプロのKさんが、口座のお金に手を付けてしまった。ご両親からはスリップしたら親子の縁を切ると言われていたようで、スリップを告白したら奥様からは離婚を言い渡されたようです。

 

明日は我が身、典型的な依存症脳とは?

スリップしたことで無期限お小遣い無し、奥様がKさんに対し敬語になってしまった、ギャンブル依存症の知識が少ない家族に耐えきれなくなったKさんは、給料日にお金を全額下ろして行方をくらまし、100万稼いで“何か”を証明し家族と仲直りというプランを考えているようです。

“何か”って何だろうと考えましたが、自己肯定感が極限まで下がっている状態でしょうから、自分は稼げることを奥様に証明したいのだと思います。

Kさんはギャンブル依存症者のお金を断つという制裁は間違っている、それでは何も解決しないと主張しています。なぜならギャンブルをするためにどうやって金を作るか、犯罪も含めた金策で頭がいっぱいになってしまうから。

↑これを読んで皆さんはどう思われたでしょうか。ちょっと頭おかしいんじゃないの?と思う方が多いと思いますが、これは私から見ると典型的な依存症者の考え方で、過去の私と被る部分がたくさんあります。

 

何でそうなる!?

特に、給料日にお金を全額下ろして行方をくらまし、100万を稼いで「自分はこんなに稼げる人間なんだ」ということを証明し、家族と仲直りするというところ、もう完全に依存脳です。絶対に100万稼げると思っているところにも恐ろしさを感じます。「何でそうなる!?」って思いますよね。

こういう考え方にさせてしまうのが依存症です。自分を客観的に見ることができず、他人の意見にも耳を傾けられず、自分の欲まみれで、お金を穴埋めすれば妻が許してくれると思っている。

奥様はお金が戻ってきても、Kさんの行為を許せないでしょう。奥様からすればお金だけじゃなく、家族を裏切ったことが許せないのだから。そういうところに今のKさんは考えが及ばないのです。

 

何を言っても、責めても、行動は変わらない

Kさんの一連のツイートには、同じギャンブル依存症の方から責めるような返信も多くありました。今のKさんには誰が何を言っても無駄で、本当の底つきを味合わないと、回復は出来ないだろうなと思いました。

ギャンブル依存症からの回復を目指す人たちからすれば、Kさんの行動が許せないのだと思います。ギャンブル依存症から回復したいなんて軽々しく口にするな!こっちは本気でやってんだ!という思いや、何とかしてKさんを止めたいという思い、明らかにバカにしているような人、ご家族の立場から物申す人。

一連のKさんのツイートを傍観しながら思ったのは、昔の私みたいだということ。そしていつあちら側に自分が戻ってしまうか分かりません。

Kさんのことを「おかしなやつ!」と笑い飛ばすことは私にはできません。依存症者である私にとって、明日は我が身なのです。

依存症者と元受刑者の理解されない苦しみは似ている

Kさんのツイートを見て思いました。私も出所後はKさんのように自分のことを棚に上げて夫へ理解を求め、色々なことを要求していました。

前回の「仮釈放当日の出来事 #2 」の後の生活を書いていきます。

1日の生活費として朝に2,000円を渡されます。この中からその日の食材を購入し、余った分は自分の好きなことに使っても構わないというルールでした。けれど2,000円で1日の食材を買ったらほとんど残らないんですよね。むしろ足りない。このことに私は超イライラしていました。

依存症がどんどん悪化し夫に多額の借金を背負わせ、苦労もさせ迷惑も散々かけて、自分が刑務所へ行ったのにもかかわらず、です。

スマホを持つことも許されませんでした。ろくな人間と連絡を取っていないことが受刑中に発覚し、受刑前はゲームや漫画に湯水のように課金をしていたからです。

その尻拭いをした夫からすれば、「症子にスマホを持たせたらまた同じことをする、だったら絶対に持たせるもんか!」となるのは当然のことです。

私はスマホだけは持たせてくれと懇願しました。主張としては、夫が仕事に行っている間に何かあったらどうする?私が倒れたりしたら?そういう可能性は0じゃないよね?というものです。もちろん本気でこう思っていて、スマホを悪用する気なんて(課金する気なんて)これっぽっちもありませんでした。

運が良いのか悪いのか、私は出所直後にアスペルギウスが原因の肺炎となりました。

夫がこれまでトイレやお風呂の掃除をほとんどしていなかったので、私はハイターやカビキラーをフルに使って徹底的に汚れを落としたのですが、その中に相当数のカビがいたようです。マスクをせずに作業をしたのが悪かったのですが……。

刑務所は決してきれいな場所ではありませんが、刑務所より自宅の方がカビや埃が物凄かったんでしょうね。あっという間に体調が悪化しました。

夫が仕事に行っている間に熱は38度後半になり、咳は酷いしする度に肺が痛い。呼吸も苦しい、もちろん食事も摂れない。夫に連絡したくても、スマホも家の電話も無いからできない。

そんなことになっているとは全く知らない夫、夜の22時くらいに帰宅しました。救急車は呼ばずに車で救急病院に連れて行ってもらいましたが、あの時は本当に死ぬかと思いました。

こんなことがあったので、夫は渋々私にスマホを持たせてくれるようになりましたが、私が肺炎になっていなかったら持たせてもらえなかったかも知れません。

 

こっちの言うこと聞いてよ!いやこっちの言い分にも向き合ってよ!

依存症者の家族や受刑者の家族は、それまで散々迷惑を掛けさせられています。

借金の肩代わり、見たくもない異性関係、暴力や暴言。ここには書ききれないほど嫌な思いをしてきていると思います。

だから依存症者に、出所後の元受刑者に厳しいことを言うのです。

今度こそ回復してもらいたい、更生してもらいたいという想いが強ければ強いほど、依存症者と元受刑者に厳しい要求をします。行動を制限します。コントロールしようとします。

依存症者や元受刑者は、頭では分かっているんです。「家族に迷惑をかけたから悪いのは自分なんだ、我慢しなくちゃ」と。

ですが締め付けが厳しいほど、依存症者や元受刑者は「もう少し自分のことを信用してよ、頑張ってるんだから…」という気持ちが出てきます。対等に向き合って欲しいと思うのです。

ですが家族からすれば散々迷惑を掛けられたから、依存症者や元受刑者が頑張るなんて当然のこと。頑張ってもらわないと困るんですよね。

この辺りが依存症者や元受刑者と、支えるご家族側の噛み合わない部分だと思います。

依存症者や元受刑者は、家族に迷惑を掛けたことは理解しています。だから思ったことをストレートに発言できない状況に陥ります。

家族に「お前がそんなことを言える立場にあんの?」とか「散々好きなことをやってきたんだから我慢するの当然だよね?」こう言われたらぐうの音も出ません。

力関係の天秤が家族側に傾きすぎると、依存症者も元受刑者も暴走すると私は思っています。暴走すれば雪だるま式に転落するのは時間の問題です。

冒頭に書かせていただいたKさんのように。

 

皆さんにご報告です。実は一昨日とても嬉しいことがありました。
私が立川拘置所に居るときに、元受刑者、元ヤクザで現在牧師をされている進藤龍也さんの講話が放送で流れました。彼の講話を聞いていなかったら今の私は存在しません。

その想いを綴ったブログ「進藤さんがいたから、依存症子は存在する 」に、進藤さんご本人からコメントを頂きました。

こつこつとブログを更新し続けて1年ちょっと。まさかご本人に私のブログが届くとは思っていませんでした。

進藤さんが拘置所や刑務所で講話をしたことで救われた人間が居る。そのことを伝えられて本当にとても嬉しいです。HPの運用が始まってから進藤さんに会いに行って、直接感謝の気持ちを伝えようと思っています。

 

※この記事は碧の森運営者、依存症子のブログ依存症子 好き放題を続けていたら受刑者になりましたの内容を、加筆修正して再掲載したものです。

原本のサイトはこちらです。読者の皆さんからのコメントなども、ご参考になさってください。

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